プロ自転車選手になる方法(U16・ジュニア版)|ダウセット

先日はU23版を紹介した、アレックス・ダウセット『プロ自転車選手になる方法』から、今回はU16・ジュニア版を紹介する。
(※ ダウセット選手のYoutubeチャンネルの管理者である、シャネルさんとダウセット選手に許可をいただいて、日本語訳を紹介しています。)
アレックス・ダウセット
『プロ自転車選手になる方法(U23版)』はこちら。
ダウセットの経歴なども、そちらへ。
プロ自転車選手になる方法(U16・ジュニア版)
普段から、若い子たちからはたくさんの質問をもらう。そのほとんどが「どれだけのワット数が出ていればいいのか」「FTP値は」「体重は」といった問いばかり。
実は、どうやってプロ選手になるかを考える上で、これらはあまり意味がない質問なのではと僕は思っている。
もしかして、最近その質問が多いのは、(新型コロナウイルスの影響で)レースがないせいでみんなちょっとパニックになってしまっているせいかもしれないし、だとしたらその気持ちはよくわかる。
どうやってプロ選手になるか、何に集中したらいいか、僕が知っていることを伝えることで少し不安が減ったらうれしいし、U16、ジュニア、U23カテゴリー時代をどんな風に過ごすか、キミたちだけじゃなくてもしかしたらキミたちの両親にも、何かの指針として役立ててもらえるといいな。
U16へのアドバイス
学校に通いつつ、レースは楽しめ
U16ということは、キミはまだ学校に行っているね。このビデオを通して何度も言うことになると思うけど、学校には通い続けなくちゃいけない。U16は、まだそこまでレースに真面目に取り組むときじゃない。レースで手を抜けって言っているんじゃないよ。レースは全力で走る。かなり無遠慮な言い方になるけど、U16やジュニアの選手としてやったことって、ほとんど関係ないんだ。ジュニアやU16として何度か世界チャンピオンになったことなんて、そのうちすっかり忘れられてしまうだろう。だから、ただ楽しめ。U16ではそれがメインのアドバイスだと思う。レースを楽しむ。もちろんフルパワーで走る。でも、自分にプレッシャーをかけない。
それから、どんなレースにも出てみる。スプリンターだ、トラック向きだと自分を分類してしまうにはまだ早すぎる。今は、何でもやってみるとき。MTB、BMX、タイムトライアル(TT)、ロード、トラック…そして、いい仲間を見つける。レースはしっかり走るけど、そこで、仲間に会ったり話したりするという面も大事に。レースはある意味のトレーニングだと思って走るといい。きちんと組み立てられたトレーニングプログラムは、今の時点では役に立たない。とにかくたくさんのレースを走る。そしてロード以外のレースにも出る。
とにかく楽しむこと。これだけは強調してもし足りないくらい大事だと僕が思うことだ。
その楽しみの源は、もしかしたら何か一つ、特定の競技で力を発揮できたからかもしれない。それでもまったく構わない。僕がU16のときは、主にタイムトライアル、それからシクロクロスをちょっとやっていた。実はシクロクロスは好きじゃなかったんだけれど、一度レースがうまくいってから、シクロクロスも悪くないなと思うようになった。
とにかく学校に行き、レースをして、年相応に、子供らしく楽しむ。それが大事。とてもシンプルだろ? パワーメーターなんて買うくらいなら、BMXを買おう。楕円形のチェーンリング?フィクシー(シングルスピードのバイク)で十分だよ。
ちゃんと学校は卒業しよう
学校は必ず卒業しよう。それを聞いてうー、やだなと思うかもしれないけど、大事なことだ。将来選手になったとしてもならなかったとしても、学校を卒業したことは後悔しないと思うし、Aレベル(大学進学に必要な検定)の勉強をしたせいで選手になれなかった、ということもないだろうと思う。逆にプラスになるんじゃないかと僕は思うよ。
そして、再びはっきり言ってしまうけど、最終的にプロになれる選手は多くない。力が足りなかった、ということではなく、これは自分がしたいことじゃない、これは自分が生きたい人生じゃないと気がつくケースがたくさんあるんだ。外から見たらプロの世界は華やかに見えるかもしれないけれど、全てのレベルでプロの世界は本当に、本当に、厳しい。誰でもやっていける世界ではないし、向いていないなら、それで構わない。
だから、学校は卒業したほうがいい。後々それが必要になるかもしれない。そして、知識があること、賢いことは、必ずキミを助けてくれる。僕が保証するよ。
キミは成長期の真っただ中にいる
U16の間は、みんなかなりばらばらのペースで成長する、ということを話しておこう。
レースには、もうヒゲが生えてきそうに成長が早い子達がいるだろう。そして、そういう子たちが、ほとんどのレースで勝っているんじゃないかな。もしキミがそういう子の一人じゃなくても、どうか落ち込まないで。数年のうちに、みんな同じになるから。それに、プロ選手でベストの戦略家たちは、(身体的な)成長が遅かった選手が多い。自分より成長の早い選手たちに勝つために、頭を使わなければならなかったからなんだ。
僕は成長が早い方だったけれど、そのせいで、ロードレースの戦略的な面では苦労している。それぞれの場面で何をしたらいいか考えるのが苦手なんだ。反対に、ベン・スウィフトは成長は遅いほうだったけれど、素晴らしい戦略家になった。U16のときに、自分より馬力のある選手たちに囲まれていたからだと僕は思う。
逆に言えば、U16で早く体が成長し、出るレース全てで勝っていたとしても、それにあぐらをかいちゃいけないということ。来年も同様に楽々勝てるかどうか分からない。U23カテゴリーに進めばなおさらだ。だから、勝つなとは言わないけど、数年のうちには皆がほぼ同じ身体的レベルで闘うようになるということを忘れちゃいけない。
ジュニアへのアドバイス
現実的な目標設定をする
ジュニアということは、キミは16歳は越えていて、U18かU19だね。そしてジュニアのカテゴリーは2年間。
最近、ジュニアから直接プロ入り、という例があるけれど、でもこういった特例を見て、この年齢までにプロになれなければ、と考えてしまうのは危険なことだと思う。レムコ・エヴェネプール(訳注: 2019年にドゥクーニンク・クイックステップ加入)は特別な例だ。彼はプロ入り後も順調だけれど、本当に普通でないケースだということを忘れないで。
一方で、そのままU23に進んだミケル・ビョルグ(2020年にUAEチームエミレーツに加入)の例もある。彼の場合も1年、もしかしたら2年早くプロ入りが可能だったと思うけれど、おそらくアクセル・メルクス(ハーゲンスバーマン・アクセオンのGM)のアドバイスもあり、プロ入りを遅らせてU23カテゴリーで成長することを選んだ。
大切なのは、プロになるのにタイムリミットはないということ。パニックになったり、自分にプレッシャーをかけないようにする。そういうプレッシャーはレースにマイナスに作用するからね。
あまり真面目に(深刻に)なりすぎない
ジュニアで大切なこと…まずは、繰り返しになるけど、学校を卒業しよう。お願いだから。
そして、またショックなことを言ってしまうかもだけど、U23になってしまえば、キミがU16やジュニアで何をしたかなんて、覚えていて気にかける人はほぼ誰もいなくなる。もちろんU16やジュニアで勝てたらうれしいし、いい成績が残せれば楽しい。それがきっかけで開くU23カテゴリーの扉も1つや2つあるかもしれない。でも究極的には、それほど大事なことじゃない。
レースを一生懸命走ることや、トレーニングに精を出すことは大事だけれど、あまり根を詰めず、楽しむ気持ちを忘れないこと。
ロードだけ、などと決め付けずに、いろいろな競技で走る。シクロクロスの選手やMTBの選手がロードに転向してうまくいった例は、僕が説明する必要もないくらいだと思う。他をやめて一つに絞るのは良くない。
もしメインがロードなら、自分はクライマー、スプリンター、TTスペシャリストだと分類してしまわないこと。これも大事なことだ。
マルセル・キッテルはジュニアのとき2回世界TTチャンピオンになっている。サイモン・イェーツはマディソンのジュニア世界チャンピオンだ。今、彼らが知られているカテゴリーとはずいぶん違うだろう?
ジュニアでキミが何だったかはシニアでキミが何になるかを限定しない。ドーフィネのアルプ・デュエズで優勝した(訳注: 2017年)ピーター・ケノーがスクラッチのジュニア・チャンピオン、五輪団体追い抜き金だったとかね。
だから、何かにスペシャリティを決めないで、何にでもなる。全部やる。できればそのどれもうまくやる。
どんなトレーニングをするか
ジュニアのトレーニングは難しいね。インターバルとか、何かに特化した練習を始めたい、と思う頃かもしれない。決して悪い考えではないけれど、いちばん大切なトレーニングは、地元でエリートや第1カテゴリーの(訳注: 英国自転車連盟のシニア・ライセンスの区分でエリートのすぐ下のレベル)の男子、または女子選手を見つけて、一緒に走らせてもらい、こてんぱんにやられること。それを繰り返すこと。要するに、自分より上の選手と一緒に走り、彼らについて行こうとすること。一緒に走るだけでなく、彼らに話しかけて質問すること。気持ちよく若手の面倒を見てくれるはずだし、彼らは有用な知識の泉だ。彼らはキミがおかすべきでない間違いについて教えてくれる。おかげで、つまらない間違いで時間を無駄にすることを避けられる。キミの成長をスピードアップしてくれるんだ。
自分より上の選手たちと走り、よく話を聞く。彼らはたくさんのことを見てきているから、キミの短所も長所もすぐに見抜くだろう。喜んでキミの助けになってくれると思うよ。
気遣いができる、いい人間になろう
たくさんの人が何かの形でプロになろうとするキミを助けてくれると思う。結果的に将来何になったとしても、そこに至るまでの道のりで、多くの人が喜んで手助けしてくれるはずだ。多くの場合、彼らは何も見返りに求めない。けれど、感謝はとても大事だ。必ずありがとうを言おう。
キミがプロとして成長していくステップで、必ず起こることがある。自転車の楽しさを教えてくれた、これまで助けてくれた人たちのレベルを追い越してしまうこと。とても難しい選択だけれど、次のレベルに進むためには、その人たちを置いて、自分は先に進まなければならない。こうなったとき、彼らに対して、敬意と感謝の気持ちを忘れないで。彼らにはキミを助けねばならない理由なんてなかった。そこにあったのは、このスポーツを愛する気持ちと、キミが選手として成長していくことを楽しみに見守る気持ちだけだ。彼らが助けてくれたことを忘れないで。彼らがいなかったら、キミがここまでたどり着くことはできなかったはずだから。
とにかく楽しんで
U16とジュニアについて言えることはこのくらいかな。とにかく楽しんで、ということに尽きると思う。
僕のいちばんの思い出は、ジュニアの国内トラック選手権。ルーク・ロウ、ベン・スウィフト、アダム・ブライス、みんなでヴェロドロームの外にテントを張ってキャンプして、本当に楽しかった。レースそのものじゃなくて、レース後の夕飯やバーベキュー。トラックの外側でおしゃべりしたこと。キミたちも、そんな楽しさを見つけてくれたらいいなと思う。
そして、U16、ジュニアの間は『何でも屋』で。あと、学校は卒業する!フルタイムのジュニア選手になるのはいかんよ!
何でダメなのかというと、このあといくらでもフルタイムのライダーになるチャンスはあるから。誰がフルタイムのジュニア選手か、ということは、チームは良く知っている。チームは良く見ているから、才能も見逃さない代わりに、もしキミがジュニアでフルタイムの選手になり、U23にステップアップする前に早々に燃え尽きてしまいそうなら、それも決して見逃さない。
パワーも体重もFTPも今日の話には出てこなかったね。それは、今のタイミングではそれはどうでもいいことだから。食事習慣についても今話す必要はない。
とにかくレースを走り、仲間を作ること。楽しんで!
text:五色の猫、photo:Israel Start-up Nation
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