目標を見失わず、気持ちを強く持とう│アンダー世代は新コロナ禍にどう立ち向かうべきか、橋川健さんに聞く

新型コロナウイルスの影響で、自転車ロードレースは、4ヶ月にも渡るシーズン中断に追い込まれました。 つまりプロを目指す若い選手たちは、貴重な機会を失ってしまったことになります。特にアンダー23カテゴリーをひとつの「区切り」と考え、今季を就職活動のシーズンと位置づけていた4年目=最終年の選手にとっては、難しい時間だったはず。 🐾🐾🐾 これからどう走っていくべきか。 アンダー4年目の選手たちの進むべき方向性に関して、長年ベルギーで若手指導にあたる橋川健さんに、お話をうかがいました。
改めてどうプロへの道を目指すか。
橋川 健(はしかわ けん)
ベルギーを拠点に、若手日本人選手中心のアマチュアチーム、TEAM EURASIA-IRC tire(チームユーラシア・アイアールシータイヤ)の代表を務める
人生をかける気があるなら
来年もまだある
すごく冷めた言い方をすると、もともと僕らが選手をやっていた時代って、アンダー23という概念はなかった。それに少なくともうちの選手たちは、大学生ではない。だから、そこから先も競技を続けたければ、そのまま続ければいい。競技を続ける意欲がない……っていう選手は、そもそも理由に関係なく辞めていく。そういうものだと思うんですよね。
本当にやる気があるならば、厳しい言い方かもしれないけれども、「人生をかける」くらいの気持ちがあるならば、来年だってまたある。……たとえば日本でアルバイトをして、お金を貯めて、またヨーロッパで選手を続けることは可能なんです。
ただ大学生の中で、就職しようか、それとも自転車選手になろうか、って悩んでいる選手にとっては厳しいシーズンですね。
お給料がもらえる自転車チームというのはあるけれど、そこにいわゆる「新卒採用枠」があるわけではない。「今年はじゃあ大学生3人とろう」って、あらかじめ決まっているわけじゃないですよね?だから今年は採用ゼロになる可能性はある。その代わり、来年ちょっと増える、ということもありえる。
つまり今シーズン結果を残して……インカレのチャンピオンになって国体も優勝して……それを手土産にでお給料をもらえる日本のプロになろう、って計画していた大学生選手にとってはものすごく厳しい状況です。高校生にも同じことが言えると思います。
プロへの道を
飛び級で考えない
アンダー23カテゴリーのUCIレースで結果を残している日本選手は、ほぼいないんです。イタリアやベルギーがアンダーカテゴリーを救済すべきじゃないか……という議論をするのは当然です。強豪国の強い選手にとっては、U23ネイションズカップこそプロ入りに直結するレースですから。でも日本人にとっては、今年アンダーで走る機会が失われても、それほど状況は変わらない。
むしろ、日本の選手たちは、これからしっかり結果を残していくことを考えていくべきなんじゃないかな。
いま4年目の選手は、来年エリート1年目になった時に、エリートの第2カテゴリーのレースで成績をだせばいい。もちろんエリートのレースで結果を残すのは、すごく難しいことです。でも「俺はプロになりたい」って強く思っているんだったら、そこで成績を出して、プロへのステップを踏むしかない。そのためには、今はもう、ただ強くなるしかないんです。
みんな、ついつい、飛び級に考えがちなんですよね。「U23のネイションズカップで優勝してワールドツアー入り」みたいに。たしかに石上(優大)がコンチを経ずにプロコンに入っちゃった例はありますよ。
でも、それだけが道じゃない。むしろ多くのプロ選手が通る道ではないんです。プロコンで走っている選手の多くが、さらにはワールドツアーで走っている選手の多くだって、コンチネンタルチームで何年か走って、そこからワールドツアーに行く。
つまり第2カテゴリーのレース、アマチュアのトップカテゴリーのレースだって、プロにつながっている。チャンスはいっぱいめぐってくるんです。
もっと長い目で見て
こつこつ強くなればいい
シーズンが中断され、目標とするレースを失ってしまったのは、たしかに残念です。それに、来年も続けるなら、1年分確実に強くならなきゃいけない。いまアンダー4年目の選手は、来年エリート1年目になるわけですから。アンダーと同じレベルで走っていたらダメなんですよね。
こうなると気持ちの部分が一番大事になってくると思います。モチベーションを強く保って、続けていくしかない。
才能のあるなしは、もちろんありますよ。それでも最後は、やっぱり気持ちのような気がするんですよね。たとえば中根英登……あいつは絶対それほど才能なんかないんですよ。でも大学で自転車競技を始めて、本当に一歩ずつ、一年ずつ、強くなっていってる。
大学生の時にNIPPOとしてヨーロッパに来てましたけど、草レースを完走もできずに、泣きながら後輩が走っているのを見たりしてね。でも、あれも、自転車レースに対するモチベーションみたいなものを学ぶ、大切な時間だったんだと思いますよ。
卒業後は愛三工業に入って、そこでアジアのレースを走って。そのうちアジアのレースで入賞できるようになって。本当にちょっとずつ、ちょっとずつ強くなって、中根の今がある。
日本人選手って、成長に時間がかかると思ってます。ベルギーの選手がジュニアとアンダー23の6年間でできることを、日本人は10年くらいかかる。理論的に説明はできないんですけど。だから選手たちも、日本のコンチネンタルチームを含めた日本の関係者たちも、ちょっと長めにみていく必要があると思います。
そもそもアンダー23だからってそこで区切りをつけるのって、チーム側じゃなくて、選手側のような気がするんですよ。
もちろんご家庭の事情もあるでしょう。そのせいで、ちゃんとお給料をもらえるところで走りなさい、と言うことになるのであれば、どこか日本のコンチネンタルチームに入るという選択肢もある。そこで目標を見失わずに、こつこつ強くなることだってできるんです。
どういう風にこの先の活動を続けていくか。すべては選手自身の気持ちにかかっています。
text:みやもとあさか
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