砂埃のない春

砂埃のない春

春のクラシックレースが軒並み中止。選手もファンもみんながもの悲しく、また先の見えない非常事態に不安が募る。

何度か、春の“北”のクラシックレースを選手たちと同じ道を駆け巡り、撮影する機会に恵まれた。凸凹に敷き詰められた石畳、砂埃舞う乾いた未舗装路。いつも地図を片手に、猛スピードで進んでいく選手たちの背中を追う。自分の相棒となるのはすぐにオーバーヒートするフランドリアンが運転するオートバイだったり、段差のたびに飛び跳ねてしまう小さなマニュアルのクルマだったり。

ワンチャンスを求めて、いつもドキドキする撮影-。聞こえはいいかもしれないけど、正直、死ぬんじゃないかと思う瞬間に遭遇したのは一度か二度だけではない。でも、その緊張感、選手同様にアドレナリンが全開になる数時間が、今年はないのだと思うと、ただただ寂しく思う。

写真は、今年、必ず撮影に行こうと決めていた、私が一番好きな未舗装路レース「トロ・ブロ・レオン」。毎年、「パリ〜ルーベ」の翌週の日曜日、競技界中心が“北”から“アルデンヌ”へと移り変わり、オランダでジェットコースターのような「アムステルゴールドレース」にファンが熱狂する日に、フランス・ブルターニュ地方の西端に位置する Lannilis では、肌寒い空気のなかひっそりと知る人ぞ知るレースが静かにスタートする。

来年こそは。

magnifique と称される美しいレースがとても、とても待ち遠しい。

text & photo ; Sonoko Tanaka